私たちは、今年5月出版されたブックレット「わたしたちは見ている:原発事故の落とし前のつけ方を」を一人でも多くの人に知ってもらうために、ブックレットの拡散、本代の回収、記録をおこなう新しい会を立ち上げました(「災害時の人権を考える会」といいます。その規約は>こちら)。そして、「災害時の人権を考える会」の名前で、新しい振替口座を開くために、ゆうちょ銀行に口座開設の申込をし、必要な書類等をすべて準備し、受理されました。
ところが、その後、ゆうちょ銀行から、口座開設を拒否しますという1枚の書類が届きました(そのPDF>こちら)。
しかし、その書類にはなぜ、私たちの新しい会が振替口座を持てないのか、その理由の説明が何も書いてありません。それどころか、その理由についての問合せにも応じないと書いてありました。この問答無用の無慈悲な回答を受けて、私たちは、ゆうちょ銀行のHPから「(法人でない)団体の口座開設のサイト(>こちら)」を調べ、 どうやらマネー・ローンダリングかテロ資金の関係する組織とみなされた場合には口座開設を却下することを突きとめ止めました。そして、7月10日に、ゆうちょ銀行宛に、私たちの口座開設申込を拒否した理由について、きちんと説明して下さい、もし私たちがマネー・ローンダリングかテロ資金の関係する組織と疑われているのなら、その疑いを晴らすために必要な手立てを協議する場を設けて下さい、という以下の「質問&協議の申入れ」をしました(その報告「えっ?!私たち、いつの間に、テロ組織の一味にされてたの」。申入書のPDF>こちら)。
これは単なるちっちゃな出来事ではありません。或る日突然、私たち庶民の取組みに「マネー・ローンダリングやテロ資金の関係する組織」というレッテルを貼られ、私たちの取り組みに必要な血液(お金)を回すための心臓(ポンプ)みたいな役目をする銀行口座が開けなくなり、活動停止を余儀なくされるーーだれもがこのような目に巻き込まれる可能性があることを今回の一件は示したからです。
それは、決してささいな問題ではありません。市民が自分たちの社会を自分たちの手で運営し、統治するための基本的な市民活動、この自己統治に対する重大な規制だからです。人権でいうと、憲法が私たちに保障している「結社の自由」(21条)に対する理不尽な規制だからです。
それから18日待ちましたが、回答がありませんでした。そこで、この回答拒否の態度にまったく納得がいかなかったので、7月30日、「再度の質問&協議の申入れ」を作成し、ポストに入れようと思った矢先、ゆうちょ銀行から回答書が届いたのです(以下です。PDF>こちら)。
ぞれは「回答できない」ということをグダグダと慇懃無礼に述べた回答でした。これを読んだ私たちの一人は、こんな感想を寄せてくれました。
文章の最後で、
「再度お申し込みいただいた場合は、 改めて審査いたしますが、口座の開設をお約束するものではございません」
とあるが、 審査の問題点を示すことがなくては、再度の申し込みも拒絶 返事が返ってくるのみです。
職員採用試験等のように、特定の人が応募するのなら、こうした対応もありえますが、 民営化以前は誰でも口座開設ができたのに、民営化後は 理由もなく拒絶する方針に変えてしまい、 「再度の申し込みは受けるが、その口座開設も拒絶する」と対応する不遜な態度は信じられない思いです。
「自分たちは国をバックにする支配者なのだ」と言ってる文章です。
そもそもゆうちょ銀行は、こんなしょうもない無意味な回答をするためだけになぜ18日もかかったのか、そこからしてますます不可解、ますます腹の虫が収まらず、準備していた「再度の質問&協議の申入れ」を微修正した完成版を作成し、その翌日に投函しました(以下。PDFは>こちら)。
ブックレット「わたしたちは見ている:原発事故の落とし前のつけ方を」のエッセンスは、理不尽な事態に対し「それはおかしい。わたしたちはその理不尽に甘んじない」です。今回、ブックレットを書いた私たちは、その最初の試練に出会いました。それが「ゆうちょ銀行口座開設拒否」事件です。そこで、この理不尽に屈しないため、人権を行使するため、一歩前に出ることにしました。
それがゆうちょ銀行に対する以下の再質問書です。
一歩前に出る私たちのアクションに注視をよろしくお願いします。
(文責 「災害時の人権を考える会」代表 柳原敏夫)
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再度の質問及び協議の申入書
2024年7月30日
株式会社 ゆうちょ銀行
横浜貯金事務センター所長 様
「災害時の人権を考える会」
代表 柳原敏夫
はじめに
このたび、当団体の5月23日付の振替口座開設申込に対するゆうちょ銀行の6月26日付の拒否の通知には拒否の理由が何一つ書かれていなかったので、当団体より拒否の理由の説明を求めて7月10日付の質問書を出しました(7月12日到着を確認済み)。それから18日経過したにもかかわらず、ゆうちょ銀行より何も回答がありません。口座開設の申込が受け付けられたにもかかわらず、その後、問答無用の一片の通知で開設を拒否されるという対応に当団体は途方に暮れています。そこで、これがいったい、ゆうちょ銀行の本来の姿なのだろか?と、長い歴史を誇る民営化以前のゆうちょ銀行のあり方にさかのぼってこの問題を検討し、そこで得た結論に基いて、再度、同じ質問をさせて頂きました[1]。
1、 民営化前(~2007年9月30日)
もともと明治憲法以来の我が国の行政の実務は、交通、郵便、電話、水道などの国公営サービスの利用は、特別の制定法の定めがない限り、私法である民法上の契約として理解されてきました。そこで、上記の国公営サービスの基礎をこのように市民法に置いたことは、一方で、行政主体の不合理な特権的地位を否定することを意味すると同時に、他方で、今日では市民法であっても経済的地位の格差が歴然としている者同士ではもはや契約自由の原則は適用されず、社会国家原理等による変容が加わったものであることは社会国家原理に立脚した現憲法の制定により明らかです。その結果、国民の社会生活に不可欠な公共性の極めて高いサービスもしくはその供給が独占的にされているサービスについてはサービス主体である行政庁は「不合理な特権的地位」が否定され、公僕として国民にこれらのサービスを提供する義務を負い、正当な理由なしに当該サービスの提供を拒否できないと解されて来ました。この点、国公営サービスを規律する法律にかかる義務の規定があろうとなかろうと同様に解釈されてきました。
今回の振替口座とは、ゆうちょ銀行が民営化前から行ってきたサービスであり、《商品の代金や会費の集金、配当金や返還金の送金など、送金決済のあらゆるシーンにおいてフルに活用できる決済専用の口座》[2]であり、なおかつ利用者が全国津々浦々、どこからでも口座を持たなくても即時に利用できる極めて利便性に富んだサービスです。この意味で、振替口座は国民の社会生活に不可欠な公共性の極めて高いサービスであると同時に全国津々浦々の規模で決済可能な口座という点で独占的なサービスであり、従って、このような振替口座の開設について、民営化前においては、ゆうちょ銀行(郵政省)は特段の正当な理由なしに振替口座の開設を拒否することはできず、もし国民の社会生活に重大な影響を及ぼす、なおかつ上記の意味での独占的なサービスである振替口座の開設を拒否する場合には、公正性原則、透明性原則、説明責任の行政法の基本原理に照らし、拒否せざるを得ない正当な理由について国民に納得して貰うために説明を尽くすことが求められた――これがゆうちょ銀行の本来の姿であると考えます。
2、民営化後(2007年10月1日~)
以上述べた法律関係の基本は、ゆうちょ銀行の民営化によっても変容されるものではありません。なぜなら、そもそも振替口座というサービスは民営化前から国公営サービスの1つとして、その利用関係は民法上の契約として理解されてきたものであり、そればかりか、民営化によっても振替口座の仕組みも、従って、それが果す社会的機能も変わっておらず、それゆえ、国民の社会生活に不可欠な公共性の極めて高いサービスである点は民営化前のままだからです。従って、振替口座が公共性の極めて高いサービスであることを踏まえたとき、民営化前からのやり方である、「振替口座開設を拒否する場合には拒否せざるを得ない正当な理由について国民に納得して貰うために説明責任を果すことが求められる」点も、民営化によって変更される理由は何もありません。
従って、今回、当団体の振替口座の開設申込に対し、窓口で必要書類の提出を受けて申込を受理しながら、その後、開設拒否の通知をして来た場合には、なぜ拒否をせざるを得なかったのか、その正当な理由について、ゆうちょ銀行は、民営化前と同様に、利用者の当団体に対し誠実に説明を尽くす責任があります。
3、再度の質問の申入れ
ところが、当団体からの説明を求める上記質問書に対しても、すでに18日が経過したにもかかわらず、ゆうちょ銀行は今日現在まで回答をせず、これを無視し説明責任を全く果そうとしません。これでは、民営化の名のもとに、1で述べた「明治憲法以来の我が国の行政の実務が・・・行政主体の不合理な特権的地位を否定」したことすら否定して「私企業の不合理な特権的地位」を行使することではありませんか。もともと民営化とは競争の導入により公共サービスの改革をめざしたものであって、行政庁として否定されていた「行政主体の不合理な特権的地位」を民営化の名のもとに復活させるためではありません。
この点で、ゆうちょ銀行のこのたびの振舞いは民営化の名のもとに「私企業の不合理な特権的地位」の行使以外の何ものでもなく、国民の社会生活に不可欠な公共性の極めて高いサービス提供を拒まれた国民の側として到底納得も容認もできるものではありません。
従って、当団体としては、ゆうちょ銀行が1で述べた本来の立場に立ち帰って行動することを求めて、再度、前回と同様の以下の質問を致します。ただし、二回目はレッドカードを行使する寸前のものであり、万が一、本質問書到着後10日以内に、誠実な回答がいただけない場合には、この問題を公の場に問いかけ、なおかつ司法の裁きを受ける所存ですので、念のため申し添えます。
記
当団体は、原則として口座の開設を承諾する義務があるゆうちょ銀行に対し、なぜ、この原則通り承諾しなかったのか、拒否を裏付ける「正当な理由」について、例えば、単に「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与の疑いがある」といった一般的な理由ではなく、どのような具体的な事実に基づき「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与の疑いがあるのか」を明らかにして書面で封筒記載の住所宛に回答して頂くよう、ここに申入れをする次第です。
以 上
[1] 以下は主に塩野宏「行政法Ⅰ」「新・裁判実務大系:行政争訟」所収の藤山雅行ら「給付行政と行政契約」を参照にしたものです。
[2] ゆうちょ銀行のHP:https://www.jp-bank.japanpost.jp/kojin/chokin/furikae/kj_cho_fe_index.html